今回はくり抜き法のメリット、デメリット、どの様な粉瘤にくり抜き法を行うと良いのかを説明します。
くり抜き法のメリット、デメリット
くり抜き法のメリット
くり抜き法の最大のメリットは、傷を小さくできることです。
一般的な切開法ですと、粉瘤の大きさに沿って皮膚切開を大きくしなければならず傷も大きくなりますが、くり抜き法では2~5mm 程度の傷となります。
切除後の傷痕も、切開法では縫って閉鎖するために線状の傷痕となり手術したことがわかりますが、くり抜き法ではニキビ痕や水ぼうそうの痕の様な傷になり、自然な印象の傷になります。
くり抜き法のデメリット
デメリットは適応が限られていることです。
炎症を起こしたことがある粉瘤や、あまりに大きな粉瘤はくり抜き法での切除が困難となります。
また、くり抜き方は切開法と比べて再発が多いという報告もあります。(適応をしっかり選べば再発が多いということはないという報告もあります。)
どのような粉瘤にくり抜き方が適しているのか?
病歴、触診、超音波などの術前検査で、粉瘤だと診断がついている
皮膚の下にできる腫瘤は粉瘤以外にも色々あります。
頻度は少ないですが血管系の腫瘍や悪性腫瘍(肉腫)ができることもあります。
術前検査で粉瘤だと診断がついていないのにやみくもにくり抜き法を行ってこういった腫瘍であった場合、大出血につながったり、不適切な切除でその後の治療方針に影響を与えてしまったりということにも繋がりかねません。
超音波による術前検査は必須です。急に大きくなった等、典型的でない場合はMRI等さらなる検査も必要になります。
臍(皮膚の表面にある粉瘤の袋の入り口)の位置がはっきりわかる
粉瘤では臍の位置がはっきりわかるものと、よくわからないものがあります。
臍の位置がわからない、エコーで確認しても皮膚とのつながりがわからないものをくりぬき法で切除しようとすると、粉瘤の壁の一部を取り残す可能性があり、再発のリスクが高くなります。
くり抜き法を行うときは、この臍をくり抜くようにデルマパンチで穴をあけるので、その目安がないとどこをくり抜いていいか確信をもって施術ができなくなるのです。
過去に炎症を起こしたことがない
粉瘤は炎症を起こして赤く腫れたり強い痛みが出たりすることがあります。
この状態を放置していくと破裂して膿がでてくることもあります。
炎症は皮膚の下で粉瘤の壁の一部が破けることで起こります。
過去に一度炎症を起こしていると破壊された壁の部分が周囲の組織と強くくっついてしまっているので(癒着といいます)、小さな穴から嚢腫壁を取り出すことが難しく、取り残してしまう可能性が高くなります。
炎症歴のあるものでは半数が再発したという報告もあります。
過去に手術歴がない
過去に手術をしたものの、再発してしまった粉瘤では炎症歴のある粉瘤と同じように粉瘤の壁が周囲と癒着している可能性が高く、取り残しのリスクが高くなります。
あまり大きくない
理論上どのようなサイズでもくり抜き法は可能ですが、例えば10cmを超えるような粉瘤ですと、デルマパンチで開けた穴からの袋の壁の剥離がかなり煩雑になってしまうと思われます。
場合によっては補助切開が必要になるかもしれません。
5cmくらいまでの粉瘤ですと容易に剥離が可能です。
どのような場所の粉瘤にくり抜き法が適しているか
くり抜き法のメリットは傷跡が目立ちにくいことです。
そのメリットを一番生かせるのは、顔や首などの見える場所です。
切開法では、いかにも手術しましたという線状の傷跡が残ります。(形成外科医はその病変部位に最も適した切開のデザイン、縫合、後療法を慎重に行いますので、切開法でも十分目立たなくなります。)
くり抜き法では、2~4㎜程度の丸く少し凹んだ傷跡になり、最初のうちは赤みがありますが、徐々に色が落ち着いてくるとニキビの痕や水疱瘡の痕のような傷になり、切開法と比較して目立ちにくいです。
また、足の裏の粉瘤もくり抜き法が適しています。足の裏の切開法の傷は硬いタコ(胼胝)になり手術後も痛みが残りやすいのですが、くり抜き法ですと傷自体が小さいのでタコ(胼胝)も小さく痛みが残りづらいです。
参考文献
1.上出良一:最新皮膚外科実技マニュアル 粉瘤「臍抜き療法」MB Derma. 3 : 23-26, 1997.
2.Zuber TJ : Minimal excision technique for epidermal (sebaseous) cysts. Am Fam Physician. 2002 Apr 1;65(7):1409-12, 1417-8, 1420.
3.Alijanpour A : Comparison of the Surgical Outcomes of Minimal Excision and Elliptical Excision Techniques in Treating Epidermal Inclusion Cysts: A Prospective Randomized Study. Shiraz E-Med J. 2018 March; 19(3):e55936.
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